「手術は成功したと言われたのに腰痛が続く。」
「お尻の痛みがなくならない。」
「首や頭まで痛くなり、運動もできない。」
このようなお悩みを抱えて来院される方は少なくありません。
腰椎固定術は、神経の圧迫を取り除き、脊椎を安定させるために非常に有効な治療法です。
一方で、手術によって神経の圧迫が改善しても、腰痛や臀部痛が長期間残るケースがあります。
腰椎椎間板ヘルニアの手術では、長期成績として約80%の患者さんが良好な結果を得ると報告されています。
一方で、脊椎手術後に慢性的な痛みが残る方は約15%存在するとされ、さらに術後2年以内に腰痛が再発・残存する割合も15~25%と報告されています。
つまり、「手術は成功している」のに痛みが残ることは決して珍しいことではありません。
今回は、2023年に腰椎固定術を受けた女性患者様が、トリガーポイント鍼治療と運動療法によって日常生活を取り戻した症例をご紹介します。

手術後も腰痛・臀部痛が続く理由
腰椎固定術では神経の圧迫は改善できますが、痛みの原因がすべて神経とは限りません。
術前から長期間続いていた筋緊張、術後の防御性収縮、瘢痕組織、癒着、運動量の低下などによって、筋肉や筋膜の機能障害が残ることがあります。
こうした状態では、MRIやCTで大きな異常が認められなくても痛みが続くことがあります。
当院では、このような術後疼痛に対して筋・筋膜の状態を詳細に評価し、トリガーポイントの有無を確認しています。
症例紹介
50代女性
2023年、腰椎椎間板ヘルニアに対して除圧術および腰椎固定術を受けました。
術後、脚のしびれは改善したものの、
・腰痛
・臀部痛・しびれ
・首から後頭部にかけての痛み
・全身のこわばり
が残存し、痛みにより運動もできない状態でした。
複数の医療機関で診察を受けましたが、「画像上は問題ありません」と説明され、不安を抱えながら当院へ来院されました。
初診時に確認できた身体の状態
最も印象的だったのは、固定術周囲の組織が著しく動きを失っていたことです。
術創周囲から仙骨、腰椎下部にかけての筋肉は弾力を失い、一枚の硬い板のような状態でした。
また、身体は無意識のうちに腰を守ろうとしており、深層筋だけでなく股関節や胸郭の動きまで制限されていました。
痛みが腰だけに留まらず首や頭へ広がっていた背景には、このような全身の代償動作も大きく関係していると考えられました。
トリガーポイントが痛みを維持していた可能性
当院では、トリガーポイントを単なる「肩こり」や「筋肉の硬さ」ではなく、痛みを発生・維持する筋・筋膜の機能障害として捉えています。
術後は長期間にわたり筋肉が十分に動かない状態が続くため、血流低下や持続的な筋緊張が生じやすくなります。
その結果、深層筋を中心にトリガーポイントが形成され、腰痛や臀部痛だけでなく、関連痛として股関節、背中、頸部、頭部へ痛みが広がることがあります。
特に腰椎固定術後では、画像所見だけでは説明できない筋・筋膜性疼痛が残存しているケースを臨床で数多く経験します。
評価した筋肉
施術では固定部そのものを強く刺激することは行いません。
まず組織の反応を確認しながら、
・大腰筋
・多裂筋
・腰部腸肋筋
・最長筋
・横突棘筋群
・腰方形筋
・中殿筋
・小殿筋
・梨状筋
などを一つずつ評価しました。
痛みの原因となるトリガーポイントを確認しながら、身体全体のバランスを考慮して段階的に施術を進めました。
治療経過
最初の3か月は80分の施術を週1回継続しました。
症状の改善に合わせて、
2週間に1回
3週間に1回
へと施術間隔を延長しました。
施術を重ねるにつれて、腰の可動域が改善し、臀部痛が軽減し、首や頭の痛みも徐々に減少していきました。
腰だけを治療したわけではなく、股関節や胸郭の可動性も回復したことで、全身の代償動作が改善したことが大きな要因と考えています。
半年後から運動療法を開始
痛みが十分に軽減した段階で、当院併設スタジオにてパーソナルトレーニングを開始しました。
腰椎固定術後は、「痛みを取ること」がゴールではありません。
長期間使われなかった筋肉を再び働かせ、正しい身体の使い方を学習することが重要になります。
身体が動き始めることで筋膜の滑走性も改善し、腰だけではなく全身の連動性が回復していきました。
その結果、日常生活だけでなく、以前は困難だった運動も少しずつ再開できるようになりました。
現在の状態
初診から約1年。
現在は日常生活で痛みをほとんど感じることなく生活されています。
運動も継続できるようになり、現在は身体の良い状態を維持するため、定期的なメンテナンスを続けられています。
腰椎固定術後の痛みは筋・筋膜を評価することも大切です
腰椎固定術は、神経症状を改善するために非常に重要な治療です。
だからこそ、術後も痛みが残っているからといって「手術は失敗だった」と考える必要はありません。
神経の問題が改善したあとでも、筋肉や筋膜に残ったトリガーポイントが痛みを維持していることがあります。
画像検査では異常が少ないにもかかわらず、
腰痛が続く
臀部痛が治らない
身体が固まったように感じる
運動が怖い
首や頭まで痛くなる
このような症状でお困りの方は、一度、筋・筋膜の状態を詳しく評価してみる価値があります。
当院では、腰椎固定術後の患者様に対しても、画像だけでは分からない筋・筋膜の機能障害を丁寧に評価し、トリガーポイント鍼治療と運動療法を組み合わせながら、身体本来の動きを取り戻すサポートを行っています。
治療と併せて、パーソナルトレーニング・ピラティスで筋肉を再教育できることも当院の特徴です。
その方にあったプランで、QOLの改善をお手伝いいたします。
お気軽にご相談ください。
【監修・執筆者プロフィール】
佐野 聖(さの ひじり):はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師(国家資格)
横浜市の「はり・きゅう・マッサージ治療院 feel」院長。1995年に国家資格を取得後、整形外科勤務を経て2003年に開業。
30年以上にわたり、肩こり・腰痛・坐骨神経痛・五十肩・頭痛などの慢性的な痛みの施術に従事。筋筋膜性疼痛症候群(MPS)、トリガーポイント、筋膜へのアプローチを専門とし、解剖学・運動学に基づいたトリガーポイント鍼治療を行っている。
過去には、トリガーポイント治療に関する臨床および技術について、鍼灸専門誌『医道の日本』に特集掲載。
現在も国内外の研究論文や専門書から知見を学び続け、エビデンスと臨床経験の両面を重視した施術を行っている。
