
「痛みがあるから、無意識にかばっている」
そんな経験は誰にでもあるかもしれません。
しかし実は、その“かばい姿勢”が新たな痛みを生み、筋筋膜性疼痛症候群(MPS)を悪化させる原因となることがあります。
■ 疼痛回避姿勢とは?
疼痛回避姿勢(Antalgic Posture)とは、身体のどこかに痛みがある際に、痛みを避けようとしてとる不自然な姿勢のこと。
たとえば、腰が痛いときに上体を左右どちらかに傾ける、足を引きずる、肩の痛みで腕を上げずに生活する…といった行動がこれにあたります。
寝違いもわかりやすいと思います。
痛くない方に首を傾ける、まさに疼痛回避姿勢です。
この姿勢自体は「痛みを避けるための一時的な防御反応」であり、初期には必要な反応でもあります。
しかし、それが習慣化してしまうと問題です。
■ 姿勢の乱れが筋肉に与える影響
疼痛回避姿勢によって体の軸が崩れると、一部の筋肉は過剰に使われ、別の筋肉は働かなくなるというアンバランスが生まれます。
この結果、筋肉が疲弊し、血流が悪くなり、トリガーポイントと呼ばれる硬結(しこり)が形成されやすくなります。
この状態がまさに**筋筋膜性疼痛症候群(MPS)**です。
■ MPSの典型的な悪循環
何らかの痛みが生じる(ぎっくり腰、五十肩など)
痛みを避けて“かばい姿勢”をとる
姿勢の崩れが慢性化し、筋肉に過負荷がかかる
トリガーポイントが形成され、別の場所に痛みが広がる
さらに新たな痛みをかばう姿勢をとり、症状が複雑化
このループに入ると、元々の痛みとは別の場所にも症状が出て、「どこが原因なのかわからない」といったケースにもつながります。
■ 鍼灸治療と姿勢改善の必要性
当院では、トリガーポイント鍼治療によって、MPSの原因である硬結に直接アプローチする施術を行っています。
また、必要に応じて姿勢や動作のクセの指導も行い、痛みを繰り返さない体づくりを目指します。
「最近、姿勢が崩れてきた気がする」
「昔のケガが治ったはずなのに、また違う場所が痛む」
そんな方は、疼痛回避姿勢が慢性痛の引き金になっている可能性があります。
■ まとめ
疼痛回避姿勢は、本来“痛みを避けるための一時的な反応”
しかし長期間続くと、姿勢の乱れを生みMPSの原因になる
トリガーポイント鍼治療で、根本の筋緊張と姿勢の癖にアプローチすることが重要
“かばうほどに痛みが広がる”――
そんな負の連鎖を断ち切るためにも、早めの対処が鍵です。
『この記事の執筆者:佐野 聖(はり・きゅう・マッサージ治療院 feel 院長)』
佐野聖は1995年に鍼灸マッサージ師(国家資格)を取得。8年間にわたり整形外科クリニックに勤務し、医師との連携による臨床経験を重ねたのち、2003年に横浜にて鍼灸マッサージ治療院「feel」を開院しました。
筋筋膜性疼痛症候群(MPS)やトリガーポイントによる痛みやコリの治療を専門とし、肩こり・腰痛・坐骨神経痛・五十肩・頭痛など、多岐にわたる慢性症状の改善を得意としています。
その治療技術は、鍼灸専門誌『医道の日本』にも紹介されており、エビデンスと経験をもとに、患者様一人ひとりの痛みの本質に迫る施術を行っています。