横浜の鍼灸マッサージ治療院feel院長の佐野です。
当院ではトリガーポイント鍼療法を軸に、筋・筋膜のつながりを重視し、痛みやコリ、痺れといった症状から、全身の不調や違和感まで幅広く対応しています。
今回は、全身の不調・歪みについてのお話です。
・「右肩だけ上がりにくい」
・「首が片側に回しづらい」
・「特に痛みはないが、体が重い、バランスが崩れている感じがする」
このような訴えは、臨床の現場では決して珍しいものではありません。
むしろ、はっきりした痛みがない分、原因が分からず、「年齢のせい」「疲れのせい」と見過ごされてしまうケースの方が多い印象があります。
しかし、こうした状態は決して曖昧なものではなく、身体の中で起きている“構造的なアンバランス”の結果であることがほとんどです。
痛みがない=問題がない、ではない
痛みは身体からの分かりやすい警告信号です。
一方で、筋や筋膜の緊張、滑走不全、張力の偏りは、必ずしも痛みとして自覚されるとは限りません。
・左右で肩の高さが違う
・立っていると、いつも同じ足に体重が乗る
・動き始めだけがぎこちない
これらはすべて、筋・筋膜のバランスが崩れているサインです。
症状が出ている場所だけを見ても、本当の原因にはたどり着けないことが多い理由が、ここにあります。
全身を一つのシステムとして捉える ― アナトミートレインの視点
こうした全身的なアンバランスを理解するうえで重要になるのが、アナトミー・トレインの考え方です。
アナトミートレインでは、筋肉を単体で捉えるのではなく、筋膜を介して連結した「ライン(経線)」として身体を捉えます。
右肩の動きの悪さが
・反対側の骨盤
・体幹の回旋
・足部のアーチ
といった部位と連動していることは、臨床では日常的に見られます。
これは「原因が遠くにある」という話ではありません。
全身が一つの張力ネットワークとして機能しているという、身体のごく自然な性質です。
トリガーポイントは「点」ではなく「線」で考えるトリガーポイント鍼療法というと、「痛いところに鍼をする」「硬い筋肉を狙う」というイメージを持たれることがあります。
しかし実際の臨床では、
・症状が出ている部位
・負担を受け続けている部位
・代償的に緊張している部位
これらが一致しないことの方が圧倒的に多くあります。
アナトミートレインの視点を重ねることで、トリガーポイントは孤立した点ではなく、ライン上の要所として見えてきます。
その結果、
・必要以上に刺激を入れない
・最小限の鍼数で変化を引き出す
・施術後の身体の統合感が高まる
といった、質の高い変化につながります。
骨格矯正で「体が元に戻ってしまう理由」
整体やカイロプラクティックなど、いわゆる「骨格矯正」を受けた経験がある方も多いと思います。
施術直後に、姿勢が変わった、動きやすくなったと感じることもあるでしょう。
しかし一方で、
「しばらくすると元に戻る」
「何度も通わないと維持できない」
と感じたことはないでしょうか。
その原因は、骨格そのものを動かしても、骨格を動かしている筋・筋膜が変わらなければ、身体は元の状態に戻ろうとするという点です。
骨は自分で動くことはできません。
骨の位置を決めているのは、筋と筋膜、そして全身の張力バランスです。
つまり、多くの場合、骨格の歪みは原因ではなく、結果です。

筋・筋膜・アナトミートレインを整えるという発想
筋や筋膜、そしてアナトミートレインのライン上にある過剰な緊張や滑走不全を整えていくと、関節を強く操作しなくても、骨格は自然と良い位置に収まっていきます。
これは、矯正を否定するという意味ではありません。
むしろ、
・どこを動かすべきか
・どこは触る必要がないのか
を見極めるための前提条件が違うということです。
筋・筋膜の張力が整った状態では、身体は無理なく、自ら最適なポジションを選びます。
その結果として現れるのが、
・戻りにくい変化
・無理のない姿勢
・自然な動きやすさ
です。
「体が軽い」は、正しい位置に戻ったサイン
施術後、患者さんからよく聞かれる言葉があります。
「体がすごく軽いです」
これは筋力が急に上がったわけでも、関節が劇的に柔らかくなったわけでもありません。
全身の張力バランスが再配列され、本来あるべき位置関係に近づいた結果です。
言い換えるなら、「頑張らなくても立てる・動ける状態」に戻った、ということです。
不調の正体は、静かなアンバランスかもしれない
・強い痛みがないから大丈夫。
・年齢のせいだから仕方ない。
そうやって見過ごされてきた不調は、ある日、はっきりした痛みとして表面化することがあります。
トリガーポイント鍼療法と、筋・筋膜・アナトミートレインの視点は、その一歩手前で身体の声に気づくためのアプローチです。
骨格を無理に正すのではなく、骨格が自然と正しい位置に「ついてくる状態」をつくる。
形を変えるのではなく、身体の使われ方そのものを変える。
もし今、
「なんとなく調子が悪い」
「左右差が気になる」
「背が縮んだ気がする」
そんな感覚があるなら、それは気のせいではありません。
身体は、思っている以上に正直です。
そして、整えるべき順序さえ間違えなければ、きちんと応えてくれます。
=筆者:佐野 聖(さの ひじり)/ はり・きゅう・マッサージ治療院 feel 院長=
1995年に鍼灸マッサージ師(国家資格)を取得し、整形外科勤務からキャリアをスタートしました。臨床の現場で数多くの症例に携わる中で、痛みの多くが筋肉や筋膜に由来することに注目し、2003年に横浜で「はり・きゅう・マッサージ治療院 feel」を開業。筋筋膜性疼痛症候群(MPS)やトリガーポイント治療を専門に据え、肩こり・腰痛・坐骨神経痛・五十肩・頭痛など、慢性的な痛みに取り組んできました。
その治療技術や臨床経験は、鍼灸専門誌『医道の日本』でも特集として紹介されています。