「歩くのは大丈夫なんですが、エスカレーターに乗って立ち止まると、足の裏がしびれて、感覚がなくなってしまうんです」
そう語ったのは、当院に通院されている80代の男性。
数年前に脊柱管狭窄症の診断を受け、歩行距離の低下や足のしびれと闘ってこられた方でした。最近では、ふくらはぎがむくみやすくなり、靴下の跡が消えにくいという新たな悩みも加わり、「血流が悪くなってるのかも…」と不安を抱えて来院されました。
■ 脊柱管狭窄症と下肢の症状
脊柱管狭窄症は、加齢や椎間板変性により脊髄や神経根が圧迫される疾患です。よく知られるのは「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」と呼ばれる、歩いていると症状が出て、休むと軽快するという特徴的な歩行障害。
しかしこの方のように、立ち止まった瞬間に足裏のしびれが出る・感覚が鈍くなる・むくむという症状は、神経的な要因だけでなく、筋筋膜由来の循環障害や筋緊張の影響が強く関係していることもあります。
■ 観察された筋の異常とトリガーポイント所見
問診・触診を通して、以下の筋肉に明らかな異常が見られました。
◉ 大臀筋・中臀筋:
歩行や立位時に臀部を支える重要な筋。
過緊張により骨盤まわりの血流と神経伝達が低下。
◉ 腓腹筋(ふくらはぎ):
強い張り感と圧痛、むくみによる循環低下が明確。
◉ 大腰筋:
股関節の屈曲に関与する深層筋で、高齢者では拘縮しやすい部位。
筋緊張により骨盤前傾を強め、神経の牽引ストレスが増大している状態でした。

■ なぜ“むくみ”まで起こるのか?MPS的視点
筋筋膜性疼痛症候群(MPS)の考え方では、トリガーポイントが形成されると、
筋肉のポンプ作用が低下
局所循環の障害(動脈・静脈・リンパ)
神経伝達のブロック
が生じ、痛みやしびれに加えて「むくみ」「冷え」「感覚異常」などの二次的症状が起こるとされます。
特に、ふくらはぎの腓腹筋が強く緊張していると、血流がうっ滞しやすく、弾力のある筋肉の動きが失われるため、むくみやすく、足の感覚が鈍くなるのです。
■ トリガーポイント鍼治療の実際
① 筋の層ごとの評価
表層(大臀筋・腓腹筋)から深層(中臀筋・大腰筋)へ、触診で圧痛点と硬結を識別。
80代という年齢を考慮しながら、安全な施術計画を立てます。
② 鍼刺激による筋緊張の解除
臀筋群へのトリガーポイントアプローチ。
腓腹筋には中等度の刺鍼+軽いパルス通電で血流を促進。
大腰筋には側臥位または仰臥での深部刺鍼を実施し、骨盤・腰椎バランスを調整。
③ 自律神経と循環への影響
副交感神経優位の状態が誘導されることで
・足の血流が回復
・しびれ感の軽減
・むくみの減少
などが見られ、施術直後には足裏の感覚が戻ったとの報告もありました。
■ まとめ:「神経だけが原因じゃない」症状にトリガーポイントの視点を
高齢者の下肢のしびれやむくみが、必ずしも神経の圧迫“だけ”で起きているわけではないことは、現場で多くの症例を診てきた立場から強調したい点です。
筋肉が硬くなる=神経・血管・リンパが圧迫される=症状が出る
この“筋原性の循環・神経障害”のメカニズムに着目すれば、改善への道は開けます。
症状が慢性化していても、「年齢のせい」とあきらめる前に、MPSとトリガーポイントの視点から身体を見直してみませんか?
当院では、安全かつ効果的な鍼治療を提供しております。
お気軽にご相談ください。
この記事の執筆者:佐野 聖(はり・きゅう・マッサージ治療院 feel 院長)』
佐野聖は1995年に鍼灸マッサージ師(国家資格)を取得。8年間にわたり整形外科クリニックに勤務し、医師との連携による臨床経験を重ねたのち、2003年に横浜にて鍼灸マッサージ治療院「feel」を開院しました。
筋筋膜性疼痛症候群(MPS)やトリガーポイントによる痛みやコリの治療を専門とし、肩こり・腰痛・坐骨神経痛・五十肩・頭痛など、多岐にわたる慢性症状の改善を得意としています。
その治療技術は、鍼灸専門誌『医道の日本』にも紹介されており、エビデンスと経験をもとに、患者様一人ひとりの痛みの本質に迫る施術を行っています。