「夕方になると目がズーンと重たくなる」「目を開けているのがつらい」それに加えて頭痛が現れることも、そんな極度の眼精疲労に悩んでいる40代女性の症例をご紹介します。
この方は過去に左目の網膜剥離を経験しており、それ以来、目の使い過ぎにとても敏感になったとのこと。
パソコン作業が多く、慢性的な目の疲れ・肩こり・そして時折頭痛まで感じており、「少しでも目を休ませたい」と来院されました。
◆ 症状の経過と来院のきっかけ
初めて来院されたときは、次のような訴えがありました。
左目奥にズキッとくるような痛み
ピントが合いづらく、集中力が続かない
肩や首のこりが強く、目の疲れがひどい日は頭痛も出る
休んでもスッキリせず、慢性的に不調が続く感覚
眼科では特に異常は見られず、「使いすぎないように」と言われるだけで、根本的な対処法が見つからなかったとのこと。
◆ 眼精疲労と後頭下筋群、そして血流の関係
眼精疲労と深く関係する筋肉の一つが「後頭下筋群(こうとうかきんぐん)」。
これは首の後ろ、頭と首の境目あたりにある小さな筋肉群で、目の動きやピント調節と密接に関係しています。
後頭下筋群は、以下の4つの筋肉で構成されます
大後頭直筋
小後頭直筋
上頭斜筋
下頭斜筋

[青い星マーク:後頭下筋群]
これらの筋肉は、首の深部で頭の安定性や眼球の動き、姿勢保持に関与しており、日常生活の中で酷使されやすい部位です。
(首と頭の境の深部にあるため、施術にあたってはスキルが必要です。)
そしてもう一つ重要なのが、「血流の滞り」。
後頭下筋群がガチガチに固まると、脳や目のまわりへの血流が悪くなり、
目の奥の重だるさや緊張性の頭痛を引き起こしやすくなるのです。
さらに、こうした状態が慢性化すると「筋筋膜性疼痛症候群(MPS: Myofascial Pain Syndrome)」と呼ばれる状態に発展することがあります。
このMPSは、筋膜や筋肉の中に「トリガーポイント」と呼ばれる痛みの引き金になるポイントが形成され、 遠隔部位に関連痛を飛ばしたり、感覚過敏や自律神経の乱れを引き起こしたりするのが特徴です。
眼精疲労や頭痛といった症状が、こうした筋膜の緊張やトリガーポイントによって引き起こされる場合、 その原因筋へのアプローチが極めて効果的となります。
◆ 鍼治療のアプローチ
初回の施術では、特に硬くなっていた後頭下筋群へトリガーポイント鍼治療を行いました。
主な施術対象筋
後頭下筋群
側頭部や僧帽筋上部など首周囲の筋肉
施術後は「目の奥の圧が抜けた感じ」「首がすっと軽くなった」と感じられたようで、
その日は頭痛も起こらなかったとのことでした。
初回施術から1ヶ月後、定期メンテナンスとして再来。
その後、月に1度のペースで継続して施術を行うことで、次のような変化がありました。
目の疲れがたまりにくくなった
肩や首のこりが軽減し、仕事後もラクに過ごせる
頭痛の頻度・強さが大幅に減少
鎮痛剤や湿布に頼らなくなった
目のまわりの「血が巡る感じ」がわかるようになった
「目が疲れている」と思っていても、実は首や肩の深い筋肉のコリや、
そこから生じる血流の滞りや神経の圧迫が原因になっていることも多いのです。
そして、その背後にはMPS(筋筋膜性疼痛症候群)のように、筋膜や筋肉の異常が隠れている場合もあります。
今回のように、過去の既往歴(網膜剥離など)を考慮しつつ、無理のない刺激でケアを続けることで、目のコンディションも自然と安定していきます。
つらい眼精疲労や頭痛に悩む方にこそ、トリガーポイント鍼灸という選択肢をぜひ知っていただきたいと思います。
=この記事は、鍼灸マッサージ師(国家資格)である当院院長の佐野聖が書いています=
「佐野聖は1995年の国家資格取得以降、臨床の第一線で活躍しており、その技術は鍼灸の専門誌である「医道の日本」において紹介されるなど、トリガーポイント・筋膜由来の痛みやコリの改善において高い評価を得ております」