こんにちは、鍼灸マッサージ治療院feel 院長佐野です。
腰に負担をかけた覚えもないのに、ある日突然訪れる「足のしびれ」や「お尻の奥の鈍痛」。
それは、腰椎すべり症が静かに進行していたサインかもしれません。
今回は、10年以上にわたり当院へ通ってくださっている60代女性の患者様のケースをご紹介します。
■ 2週間に一度のケア
この患者様は、腰椎の第4・第5間でのすべり症(変性すべり症)と軽度の脊柱管狭窄を抱えながらも、現在もフルタイムでお仕事を続けていらっしゃいます。
当院には、2週に1度のペースで継続的に通院され、施術を受けてこられました。
主にアプローチしているのは、以下の筋肉群です:
大腰筋:腰椎の安定性に大きく関与
中臀筋・大臀筋・梨状筋などの臀筋群:骨盤の支持と歩行に関与
3週間以上空いてしまうと、大腿部裏側(ハムストリングス)に放散するような鈍痛が出てくるため、「痛くなる前に手を打つ」という予防的なスタンスで来院を続けられています。

■ すべり症の進行は止められる?
変性すべり症の多くは加齢による椎間関節のゆるみや椎間板の劣化が原因ですが、必ずしも手術が必要なわけではありません。
実際、米国整形外科学会(AAOS)が公表した腰椎すべり症に対する治療のガイドラインによれば:
保存療法(運動療法・徒手療法など)で改善が見られるのは全体の70~80%
一方、手術(脊椎固定術)による改善率は約80~90%
ただし、「症状が強く日常生活に支障をきたす場合」に限定されるべきとされています
つまり、痛みやしびれをコントロールできているなら、手術せずに維持することも十分可能なのです。
■ 定期的な鍼灸・マッサージでのケアの意義
滑り症の症状悪化の要因としてよく挙げられるのが、
長時間の座位や立位
筋緊張の蓄積(特に大腰筋や臀筋群)
この患者様も、仕事での長時間の立ち作業により筋肉が硬直しやすい状態です。
トリガーポイント鍼や手技療法で筋肉の緊張をゆるめ、神経根周囲の圧迫を軽減することは、滑り症・狭窄症に共通して有効な保存的アプローチです。
■ 「手術しない選択」を支えるケア
患者様が口にされたこんな言葉が印象的でした。
「手術しないで生活できるのは、ここで定期的に“リセット”してるからよ。」
腰椎すべり症や脊柱管狭窄症は、定期的なメンテナンスでQOL(生活の質)を高く保つことができる疾患です。
「手術か保存か」ではなく、「日常生活をどう快適に過ごすか」の視点で、
今後も多くの方の支えとなれるよう、私たちも誠実に向き合っていきたいと思います。
※参考文献
American Academy of Orthopaedic Surgeons. “Management of Spondylolisthesis in Adults.”
Weinstein JN, et al. "Surgical vs Nonoperative Treatment for Lumbar Spinal Stenosis." N Engl J Med. 2008.
『この記事の執筆者:佐野 聖(はり・きゅう・マッサージ治療院 feel 院長)』
佐野聖は1995年に鍼灸マッサージ師(国家資格)を取得。8年間にわたり整形外科クリニックに勤務し、医師との連携による臨床経験を重ねたのち、2003年に横浜にて鍼灸マッサージ治療院「feel」を開院しました。
筋筋膜性疼痛症候群(MPS)やトリガーポイントによる痛みやコリの治療を専門とし、肩こり・腰痛・坐骨神経痛・五十肩・頭痛など、多岐にわたる慢性症状の改善を得意としています。
その治療技術は、鍼灸専門誌『医道の日本』にも紹介されており、エビデンスと経験をもとに、患者様一人ひとりの痛みの本質に迫る施術を行っています。