筋トレは「筋肉をつけるためのもの」と思われがちですが、実はそれだけではありません。
最近の医学研究では、筋トレをはじめとする運動が、身体の中にくすぶる慢性的な炎症を抑えることが明らかになっています。
今日はその仕組みと根拠について、少し専門的な視点からお話します。

炎症とは「痛み」だけではない
慢性的な肩こり、腰痛、疲れやすさ、肌荒れ、眠りの質の低下……。
これらの背景には、「慢性炎症」と呼ばれる、目に見えない炎症反応が潜んでいることがあります。
特に内臓脂肪の増加や自律神経の乱れ、筋肉量の減少などがこの炎症を助長する要因となります。
筋トレが炎症を抑える4つの仕組み
ミオカイン(IL-6など)の分泌
・筋肉を動かすと、IL-6などのミオカイン(筋肉由来のホルモン様物質)が放出されます。運動時に分泌されるIL-6は、炎症性サイトカインであるTNF-αの分泌を抑えることが報告されています。
内臓脂肪の減少
・脂肪組織は、炎症性サイトカインを産生する“炎症臓器”の側面を持ちます。筋トレにより脂肪が減ると、TNF-αやIL-1βなどの慢性炎症物質が低下します。
迷走神経反射による抗炎症作用
・運動によって副交感神経(特に迷走神経)の活動が高まると、免疫の過剰反応を抑える「抗炎症反射(inflammatory reflex)」が働きます。アセチルコリンを介して、免疫細胞からの炎症性サイトカインの放出を抑制します。
抗酸化力の向上
・筋トレを継続することで、SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)やカタラーゼといった抗酸化酵素が増加し、活性酸素による細胞の炎症が抑えられます。
自宅でできる!抗炎症×筋力UPのための筋トレメニュー
① スクワット(下半身+体幹)
目的:大腿四頭筋・ハムストリング・臀筋を中心に活性化
体の中で最も大きな筋肉を使うことで、ミオカインの分泌量が増え、全身への抗炎症効果が高まります。
足は肩幅、背筋はまっすぐ
息を吸いながらゆっくりしゃがみ、吐きながら立つ
10〜15回 × 2〜3セット
② プッシュアップ(腕立て伏せ)
目的:大胸筋・上腕三頭筋・体幹の連動性を高める
呼吸に合わせて行うことで、自律神経系(特に迷走神経)への刺激も期待できます。
膝付きでもOK、胸をしっかり床に近づける
肩がすくまないよう注意
8〜12回 × 2〜3セット
他にも自宅でできるトレーニングはあるのですが今回は2つのみにします。
というのも、トレーニングをするにあたっては見た目同じ動きのように見えても、力の入れ方や姿勢にポイントがあります。
正しいやり方がわからない時は、指導を受けましょう。
ポイント:筋トレは“呼吸”と“意識”が鍵
ゆったりとした呼吸(特に吐く息を長く)を意識することで、迷走神経反射を促進できます。
痛みのない範囲で動き、「使っている部位」を意識することで、ミオカイン分泌がより効果的に。
医学的エビデンスに基づいた知見
以下は、運動と炎症の関係についての代表的な研究報告です。
Petersen & Pedersen(2005)
筋肉から分泌されるIL-6が炎症を抑える仕組みを初めて詳細に解説。
> Petersen AMW, Pedersen BK. The anti-inflammatory effect of exercise. J Appl Physiol. 2005;98(4):1154–1162.
Gleeson et al.(2011)
定期的な運動が炎症関連疾患(心疾患、2型糖尿病、がんなど)のリスクを下げる可能性を示唆。
> Gleeson M et al. The anti-inflammatory effects of exercise: mechanisms and implications. Nat Rev Immunol. 2011;11(9):607–615.
Beavers et al.(2010)
高齢者を対象にした筋トレ介入で、血中CRP(C反応性タンパク)が有意に低下したことを報告。
> Beavers KM et al. Effect of exercise training on chronic inflammation. Curr Atheroscler Rep. 2010;12(6):456–463.
鍼灸と筋トレの相乗効果
feelでは、トリガーポイント鍼治療に加え、身体を根本から変えていくためのパーソナルトレーニング指導も行っています。
炎症を内側から抑えつつ、筋力と代謝を改善することで、慢性痛や不調を本質から改善するアプローチを取り入れています。
まとめ
筋トレは見た目やパフォーマンスの向上だけでなく、身体の内部環境を整える医療的な手段としても非常に有効です。
肩こり、疲労感、免疫の低下、肌トラブル、あらゆる「なんとなく不調」にこそ、筋肉からのアプローチが効果的です。
feelでは、お一人おひとりの体質やお悩みに合わせて、鍼灸と運動の両面から丁寧にサポートいたします。
ご自身の身体の“炎症スイッチ”をオフにしたい方は、ぜひ一度ご相談ください。
次回「脂肪は炎症の工場」につづく・・・
『この記事の執筆者:佐野 聖(はり・きゅう・マッサージ治療院 feel 院長)』
佐野聖は1995年に鍼灸マッサージ師(国家資格)を取得。8年間にわたり整形外科クリニックに勤務し、医師との連携による臨床経験を重ねたのち、2003年に横浜にて鍼灸マッサージ治療院「feel」を開院しました。
筋筋膜性疼痛症候群(MPS)やトリガーポイントによる痛みやコリの治療を専門とし、肩こり・腰痛・坐骨神経痛・五十肩・頭痛など、多岐にわたる慢性症状の改善を得意としています。
その治療技術は、鍼灸専門誌『医道の日本』にも紹介されており、エビデンスと経験をもとに、患者様一人ひとりの痛みの本質に迫る施術を行っています。