こんにちは、痛みの治療院 feel 鍼灸院の佐野です。
年末年始の帰国にあわせて、シンガポールに10年在住されている方が来院されました。
主訴は、数年前から続く左の奥歯(上下)の痛みです。
症状が最も強かった時期には、フロスを歯間に通すだけでも強い痛みを感じるほどで、日常のセルフケアが困難な状態でした。
その後、歯科治療を一通り受けたものの、歯科的な異常は認められず、明確な改善も得られませんでした。
数ヶ月前、シンガポールの日本人歯科医より筋筋膜性歯痛との診断を受け、その後は現地で鍼治療や整体による筋・筋膜へのアプローチを継続的に受けることで、痛みは徐々に緩和してきている状態とのことでした。
実際、現在は痛みの強さはピーク時より軽減しており、
当時のようにフロスが通せないほどの激しい痛みは出ていません。
一方で、
「完全に消えたわけではなく、芯のようなものが残っている感じがする」
という自覚があり、決定的な改善には至っていない状況でした。
そこで、残存している痛みの原因としてトリガーポイントの関与を疑い、「一度、トリガーポイント治療を受けてみよう」という判断のもと、当院を受診されました。
近年、注目されるようになってきた「筋筋膜性歯痛」
近年、筋筋膜性歯痛は、歯科・口腔顔面痛の分野を中心に、徐々に注目されるようになってきています。
その背景には、歯科的な検査や治療だけでは説明できない歯痛が一定数存在するという臨床的事実があります。
レントゲンやCTで異常が見つからない
虫歯や歯周病の治療を終えても痛みが残る
痛みの強さに日内・日差の変動がある
ストレスや疲労で悪化し、筋への介入で軽減する
こうした特徴は、筋・筋膜由来の疼痛と強く一致します。
咬筋や側頭筋に形成されたトリガーポイントは、
歯そのものに異常がなくても、歯痛として感じられる関連痛を引き起こすことがあります。
今回のケースにおいても、
歯科治療では変化がなく、筋・筋膜へのアプローチによって痛みが軽減してきているという経過は、
筋筋膜性歯痛を考える上で非常に示唆的なものといえます。

施術内容と評価
① うつ伏せでの施術(肩・頸部)
まずは全体のバランスを確認するため、うつ伏せにて肩・頸部の施術から行いました。
触診では、左側の筋緊張が顕著で、左右差が明らかな状態でした。
顎周囲の症状であっても、頸部や肩帯の緊張が関与しているケースは多く、
関連筋を含めた調整を行いました。
② 仰向けでの施術(側頭筋 → 咬筋)
次に仰向けでの施術に移ります。
まずは側頭筋をしっかりと緩めた後、咬筋の評価と施術を行いました。
触診を進める中で、
左咬筋の深層および外側靱帯付近に明確なトリガーポイントを確認しました。
この部位は、歯の痛みとして症状が現れやすい、いわば核心部です。
施術中、ご本人からは
「かなり、痛みの本体に近い感じでした」
という感想があり、関連痛の再現性が確認できました。
結果と今後について
今回の施術では、痛みの核心部にかなり近づくことができたと考えています。
ただし、筋筋膜性歯痛は長期間にわたって形成されていることが多く、1回の施術で完全に解消することは難しいのが実情です。
本来であれば、複数回に分けてトリガーポイントを段階的に解除していくことで、より安定した改善が期待できます。
今回は滞在期間の都合上、継続的な施術は叶いませんでしたが、次回帰国時に、症状の変化について改めて確認できればと思います。
まとめ:痛みが緩和してきているという事実が示すもの
歯が原因であれば、処置を行わない限り痛みが自然に軽減することは多くありません。
一方、筋筋膜性の痛みは、
状態や負荷によって強弱が変わる
筋・筋膜への介入で軽減する
完全には消えず、違和感や「芯」が残ることがある
といった特徴を示します。
今回のように、
フロスが通せないほどの痛みが、筋・筋膜へのアプローチによって緩和してきている
という経過は、筋筋膜性歯痛を考える上で非常に重要なポイントです。
「歯は悪くない。でも、確かに痛い」
その違和感の正体は、歯ではなく筋にあるかもしれません。
原因不明の歯痛でお困りの方は、
一度、筋・筋膜という視点からの評価を検討してみてはいかがでしょうか。