今回は、「スクワットを300回やった直後に腰が痛くなった」という40代女性の症例をご紹介します。
一見すると「頑張りすぎただけかな?」と思われるかもしれませんが、実はこのケース、トレーニングに取り組むすべての方にとって重要な“学び”が詰まった内容です。

■ 痛みの始まり:スクワット直後にお尻→腰へと広がる激痛
来院されたのは、健康づくりの一環で運動を始めたばかりの40代女性。
その日は、気分が乗っていたこともあり、休憩をはさみながらスクワットを合計300回実施。
「まだいけそうだと思って…」と話されていましたが、終了直後からお尻にズキンと鋭い痛みを感じ、その後数時間で腰全体に痛みが広がり始めたそうです。
その晩には、寝返りを打つたびに激痛が走り、仰向け・横向け問わず眠れない状態に。翌朝は立ち上がるのもつらくなり、当院にご連絡をいただきました。
■ 評価と施術:ひどいぎっくり腰への4日間・3回の集中治療
今回のケースは、**強い炎症と筋緊張が混在した、典型的な“ひどいぎっくり腰”**でした。
短期間での改善を目指し、4日間で3回の施術を計画的に実施。以下がその詳細です。
【初回(来院当日)】
痛みレベルは10(最大)。まずは腰全体の評価を行い、
大臀筋(お尻)
ハムストリングス(太もも裏)
多裂筋(背骨沿いのインナーマッスル)
に強いトリガーポイントと緊張を確認。
初回は全体の筋緊張を広く緩めることを優先し、鍼で深部へアプローチ。腰部の血流と神経反応を改善し、立ち上がりや寝返りの痛みが軽減しました。
【2回目(1日空けて来院)】
この日は大腰筋をメインに施術。
大腰筋は深層に位置し、姿勢保持や股関節屈曲に関与する非常に重要な筋肉です。
今回は、鍼に低周波通電を組み合わせることで、深部までしっかりと筋緊張を緩めるように施術。可動域が改善され、歩行時の痛みも明らかに減少しました。
【3回目(翌日)】
仕上げの調整として、右腰部の腸肋筋・腰方形筋、そして左側の脊柱起立筋・多裂筋に残っていた硬さにアプローチ。
左右の筋バランスを整えることで、体幹の安定性を高め、再発防止につながる治療となりました。
■ 経過と考察:原因筋の特定と想定通りの回復
翌日には、初日の痛みレベル10が**「1」まで低下**。日常動作にはほぼ支障がないレベルまで回復したため、ここで一旦経過観察としました。
今回は、受傷の原因が明確(スクワット直後)だったため、関与する筋肉(罹患筋)の特定が容易であり、毎回の施術が想定通りの経過を辿ったことが、早期改善につながったと考えています。
■ 鍼治療のリアル:1回で治ることもあれば、数回かかることも
鍼治療では、ぎっくり腰が1回の施術で劇的に改善するケースも多くあります。
しかし今回のように、深層筋の複合的な緊張や強い炎症を伴う「ひどいぎっくり腰」では、複数回に分けて施術を重ねる必要があります。
症状の背景にある筋肉の状態・生活動作・姿勢のクセなどを踏まえて、丁寧に段階的に整えることで、より安全かつ確実な改善を目指せるのです。
■ フォーム崩壊のスクワット300回──その“努力”が身体を壊す
「300回もできたなんてすごいですね!」と思ってしまいそうですが、実はここに大きな落とし穴があります。
本来、正しいフォームのスクワットは15〜20回でもしっかり効くもの。
それが300回も“できてしまう”というのは、フォームが崩れ、負荷が適切に入っていない可能性が高いのです。
フォームの乱れによって、本来使うべき筋肉ではなく、腰や関節、靭帯などにストレスが集中し、トレーニングのつもりが痛みの原因になってしまうこともあります。
■ すべてのトレーニングは「フォーム」が基本
スクワットに限らず、
ベンチプレス
デッドリフト
ランジ
プランク
腕立て伏せ
すべてのトレーニングに共通して言えるのは、「フォーム」が最重要ということです。
正しいフォームで10回
間違ったフォームで100回
前者は身体を鍛え、後者は身体を壊します。
特に初心者の方は、最初の段階で正しい身体の使い方・筋肉の感覚を身につけることが、今後のトレーニング効果とケガ予防の大きな分かれ道になります。
■ まとめ:夜も眠れない痛みの前に、正しい知識とサポートを
運動を始めることは素晴らしいことです。
ただし、「がんばりすぎた結果、動けなくなった」ではもったいない。
運動後の違和感
いつもと違う痛み
夜も眠れないほどの腰痛
これらは体が出しているSOSのサインかもしれません。
当院では、原因となる筋肉の評価、鍼治療、手技、姿勢やトレーニング動作のアドバイスまでトータルでサポートしています。
「ただの筋肉痛かな?」で放っておかず、気になる症状があればどうぞお気軽にご相談ください。
『この記事の執筆者:佐野 聖(はり・きゅう・マッサージ治療院 feel 院長)』
佐野聖は1995年に鍼灸マッサージ師(国家資格)を取得。8年間にわたり整形外科クリニックに勤務し、医師との連携による臨床経験を重ねたのち、2003年に横浜にて鍼灸マッサージ治療院「feel」を開院しました。
筋筋膜性疼痛症候群(MPS)やトリガーポイントによる痛みやコリの治療を専門とし、肩こり・腰痛・坐骨神経痛・五十肩・頭痛など、多岐にわたる慢性症状の改善を得意としています。
その治療技術は、鍼灸専門誌『医道の日本』にも紹介されており、エビデンスと経験をもとに、患者様一人ひとりの痛みの本質に迫る施術を行っています。