こんにちは、鍼灸院feel院長の佐野です。
患者さんからよく「鍼を受けると体はどう変わるんですか?」「定期的なケアをすると何が違うんですか?」と聞かれます。
鍼治療は即効的な効果もありますが、本当の価値は積み重ねることで現れてきます。今日は、その変化の背景にある仕組みを専門家視点も交えて解説します。
鍼をした直後に起こる変化
鍼を受けた直後、多くの方が「体が軽くなった」「温かくなった」「リラックスした」と感じます。
これは、鍼によって筋肉の緊張が和らぎ、血流が改善し、さらに脳内で痛みを和らげる物質(内因性オピオイド)が分泌されるためです。
定期的なケアで起こる体の変化
疲労回復
鍼は局所の血管を拡張させ、血流を改善します。その結果、筋肉に溜まった乳酸などの疲労物質が排出され、筋線維や筋膜の代謝も活発になります。
さらに、微細な刺激に対する修復反応として成長因子が分泌され、組織の回復が促進されます。これが「疲労が抜けやすくなる」理由です。
睡眠の質向上
鍼は自律神経を整え、交感神経優位から副交感神経優位へ切り替えを助けます。
また、セロトニンやメラトニンなどの神経伝達物質に作用し、睡眠リズムを安定させます。
その結果、寝つきがよくなり、深い眠りにつながります。
コリや痛みの改善・予防
鍼刺激は筋膜や筋線維に小さな損傷を与え、それを修復する過程で血流と柔軟性が改善します。
同時に、神経系に作用し、脳内でエンドルフィンやエンケファリンといった鎮痛物質を放出。これが痛みの軽減をもたらします。
定期的にケアすることで、痛みを感じやすい神経の過敏性が抑えられ、慢性化を防ぐことができます。
加齢に伴う変化の緩和
加齢により筋肉や関節が硬くなりますが、鍼によって血流と代謝が高まり、柔軟性が保たれます。
さらに、鍼刺激はコラーゲンやエラスチンの産生を刺激し、結合組織の質を改善します。
そのため「動きやすさを保てる」「転びにくくなる」といった実感につながります。
心身のリラックス
鍼の刺激は脳内の扁桃体や視床下部に作用し、ストレス反応を抑えます。
その結果、セロトニンやGABAといった安定化の神経伝達物質が増え、心まで落ち着きやすくなります。
患者さんからも「治療後は気持ちまで軽くなる」とよく言われるのは、このメカニズムによるものです。
鍼治療の有効性を示す報告・研究
慢性痛(肩・腰・頭痛)に対してプラセボ以上の効果(Vickersら, 2017)
慢性腰痛・緊張型頭痛に対する有効性(Lindeら, 2016)
高齢者のバランス機能やQOL改善(Yamashitaら, 2019)
変形性膝関節症における痛み軽減と機能改善(Manheimerら, 2018)
鍼治療は「なんとなく効く」ものではなく、科学的に裏付けられています。
まとめ
鍼治療によって起こる変化は...

疲労回復(血流・代謝改善)
睡眠の質向上(自律神経と神経伝達物質の調整)
コリや痛みの改善・予防(内因性鎮痛システムの活性化)
加齢に伴う変化の緩和(組織修復・コラーゲン産生促進)
心身のリラックス(中枢神経系によるストレス反応の抑制)
といった多面的な効果に整理できます。
さらに東洋医学の観点からは「未病を治す」、つまり病気になる前に体を整えることが鍼の大きな役割です。
鍼治療は「今ある症状を取る」だけでなく、「未来の体を守る」ための健康習慣でもあります。
ぜひ定期的なケアとして取り入れていただければと思います。
=筆者:佐野 聖(さの ひじり)/ はり・きゅう・マッサージ治療院 feel 院長=
1995年に鍼灸マッサージ師(国家資格)を取得し、整形外科勤務からキャリアをスタートしました。臨床の現場で数多くの症例に携わる中で、痛みの多くが筋肉や筋膜に由来することに注目し、2003年に横浜で「はり・きゅう・マッサージ治療院 feel」を開業。筋筋膜性疼痛症候群(MPS)やトリガーポイント治療を専門に据え、肩こり・腰痛・坐骨神経痛・五十肩・頭痛など、慢性的な痛みに取り組んできました。
その治療技術や臨床経験は、鍼灸専門誌『医道の日本』でも特集として紹介されています。