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鍼灸専門治療院 feel横浜本院 院長ブログ
2026年01月10日

線維筋痛症(FMS)において「動かすこと」が治療になる理由 ― アナトミー・トレインから考える体を動かす重要性―

MPS・筋筋膜性疼痛症候群
線維筋痛症

はじめに

線維筋痛症(FMS)の患者さんに対して、「痛いなら無理に動かさないほうがいい」と考えてしまうことは、珍しくありません。

しかし実際には、線維筋痛症(FMS)であっても、痛みがある中で“動かせる範囲を見極めながら動かすこと”は、治療の一部と考えます。

その理由を理解する鍵が、筋膜の連続性という視点、すなわちアナトミー・トレインの考え方です。





線維筋痛症(FMS)における「動けない状態」の正体


線維筋痛症(FMS)の患者さんが動けなくなる背景には、単なる筋力低下や関節可動域制限だけでは説明できない要因があります。

・痛みによる恐怖回避行動
・中枢神経系の過敏化による過剰な防御反応
・動かさないことで進行する筋膜の滑走不全
・呼吸・姿勢・重心制御の破綻

この状態では、「痛み → 動かない → さらに硬くなる → さらに痛い」という悪循環が生れます。



動かさないことが筋膜に与える影響


筋膜は、動かされることで性質を保つ組織です。

長時間同じ姿勢を続けたり、痛みを理由に動きを極端に制限したりすると、筋膜は以下の変化を起こします。

・滑走性の低下
・粘弾性の低下
・張力の偏り
・感覚受容器の過敏化

これは、線維筋痛症(FMS)における「全身がこわばる」「少し動いただけで疲れる」という症状をさらに強める要因になります。



アナトミー・トレイン「全身はつながっている」

アナトミー・トレインでは、身体を個々の筋肉の集合体としてではなく、筋膜を介して連続する“ライン(経線)”の集合として捉えます。

この視点に立つと、重要なことが見えてきます。

・痛みがある部位 ≠ 原因がある部位
・動かせない部位 ≠ 介入すべき部位
・小さな動きでも全身に影響を及ぼす

たとえば、
腰や背中が痛くて動けない線維筋痛症(FMS)の患者さんであっても、足部・呼吸・骨盤のわずかな動きが、筋膜ラインを通じて全身の緊張に影響を与えることがあります。



線維筋痛症(FMS)において「動かす」ということ

ここでいう「動かす」とは、筋力トレーニングやストレッチを指しているわけではありません。

線維筋痛症(FMS)における運動の本質は、

・痛みを我慢して行う運動ではない
・可動域を広げることが目的ではない
・正しいフォームを作ることが最優先でもない

「安全だと中枢神経が認識できる動き」を繰り返すことです。



痛みがあっても動かすことの3つの意義

1.中枢神経に「動いても危険ではない」と伝える

線維筋痛症(FMS)では、実際には組織が損傷していなくても、中枢神経が「危険」と誤認している状態が続いています。

小さく、ゆっくりとした動きは、痛みを増やさない感覚入力として中枢に届き、過剰な防御反応を緩める役割を果たします。


2.筋膜ライン全体の張力バランスを整える

アナトミー・トレインの視点では、筋膜の緊張は「点」ではなく「線」として分布します。

局所を無理に伸ばさなくても、ラインのどこか一部を穏やかに動かすだけで、全体の張力が変化します。

これは、線維筋痛症(FMS)のように「触ると全部痛い」ケースにおいて特に有効な考え方です。


3.呼吸と姿勢制御が回復しやすくなる

動きを止めると、呼吸は浅くなり、体幹の安定性も失われていきます。

安全な範囲で身体を動かすことは、呼吸・姿勢・自律神経系を同時に整える刺激となります。

結果として、痛みの強度そのものだけでなく、疲労感や不安感の軽減につながることも少なくありません。



線維筋痛症(FMS)における「やってはいけない動かし方」

重要なのは、「動かすこと」そのものではありません。

以下のような動かし方は、線維筋痛症(FMS)では逆効果になることがあります。

・痛みを我慢する前提の運動
・疲労を翌日まで強く残す負荷
・回数・時間・強度を目標にする運動
・「やらなければ治らない」という心理的圧迫

運動は治療であって、課題やノルマではありません。



鍼治療と運動を組み合わせる意味


トリガーポイント鍼療法で筋膜の過剰な緊張や感覚入力を一時的に整えた後、ごく小さな動きを加えることで、

・整った状態を中枢に定着させる
・「楽に動けた」という成功体験を作る
・痛みと動きの結びつきを書き換える

この流れが、線維筋痛症(FMS)における治療の質をあげると考えます。




まとめ

・線維筋痛症(FMS)において「動かすこと」はリスクではなく治療
・重要なのは、痛みのない・増やさない範囲での動き
・アナトミー・トレインは、局所にとらわれない安全な運動理解を可能にする
・動きは中枢神経への「再教育」である

線維筋痛症(FMS)の回復過程において、「動けるようになってから良くなる」のではなく、「動ける範囲を取り戻すことで良くなっていく」この順序を理解することが、何より重要と考えています。




=筆者:佐野 聖(さの ひじり)/ はり・きゅう・マッサージ治療院 feel 院長=
1995年に鍼灸マッサージ師(国家資格)を取得し、整形外科勤務からキャリアをスタートしました。臨床の現場で数多くの症例に携わる中で、痛みの多くが筋肉や筋膜に由来することに注目し、2003年に横浜で「はり・きゅう・マッサージ治療院 feel」を開業。筋筋膜性疼痛症候群(MPS)やトリガーポイント治療を専門に据え、肩こり・腰痛・坐骨神経痛・五十肩・頭痛など、慢性的な痛みに取り組んできました。
その治療技術や臨床経験は、鍼灸専門誌『医道の日本』でも特集として紹介されています。

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