鍼灸マッサージ治療院 feel 院長の佐野です。
整体や治療院の広告で
「痛みの原因は姿勢の歪み」
「骨格矯正で痛みを改善」
といった言葉を目にすることがあります。
確かに姿勢と身体の状態は無関係ではありません。
しかし、姿勢や歪みが痛みの原因であると単純に説明してしまうのは、臨床的には少し違和感があります。
鍼灸師として30年以上、また整形外科での勤務経験から感じているのは、「痛みがあるから姿勢が変わる」というケースの方がむしろ多いということです。
人は痛みを避ける姿勢を無意識にとる
身体に痛みやコリがあると、人は無意識にその痛みを避ける姿勢をとります。例えば
・腰が痛いと体を前に倒す
・首が痛いと頭を傾ける
・肩が痛いと腕をかばう
このような姿勢は、医学的には疼痛回避姿勢と呼ばれます。
トリガーポイント研究でも、人は痛みや不快感から逃れるために楽な姿勢を自然に選択するとされています。
つまり、よく言われる
「歪んだ姿勢」
というものの多くは、痛みを回避するための結果として現れている姿勢なのです。
トリガーポイントが姿勢を変える
筋肉にトリガーポイント(筋硬結)ができると
・筋肉が短縮する
・伸びにくくなる
・動きが制限される
という変化が起きます。
すると身体は、その筋肉をなるべく痛くない状態に保とうとして
・体幹を傾ける
・関節の角度を変える
・別の筋肉に負担を逃がす
といった代償姿勢をとるようになります。
例えば腰痛でも、どの筋肉にトリガーポイントがあるかによって患者さんがとる姿勢は異なります。
つまり、姿勢が痛みを作るのではなく、痛みが姿勢を変えているというケースは非常に多いのです。

アナトミートレインから見た姿勢
身体は筋肉が単独で働いているわけではありません。
筋肉や筋膜は全身でつながり、筋膜連鎖(アナトミートレイン)として機能しています。
この考え方では、身体の姿勢は、局所ではなく全身の連鎖によって決まるされています。
筋膜連鎖の視点では
・一部の筋肉の痛み
・過去のケガ
・筋肉の使い方のクセ
などによって、身体全体に代償パターンが生まれます。
その結果として
・体の傾き
・肩の高さの違い
・骨盤の位置の変化
といった、いわゆる「歪み」が現れます。
しかしアナトミートレインでは、理想的な姿勢に無理やり矯正することの妥当性には疑問があるとも指摘されています。
姿勢は固定されたものではなく、身体の状態に応じて変化する動的なバランスだからです。
姿勢は「矯正」するものではないでは姿勢はどうすればよいのでしょうか。
結論から言えば、姿勢は矯正するものではなく、結果として変わるものだと考えています。
まず行うべきは
・痛みの原因となる筋肉(トリガーポイント)の改善
・筋膜の滑走改善
・動きの回復
です。
痛みが改善すると、これまで取っていた疼痛回避姿勢が自然と減っていきます。
そのうえで
・日常動作の意識
・適切なエクササイズ
・筋力と柔軟性の回復
によって、
本来の姿勢に近づいていく
という流れになります。
まとめ
「姿勢が悪いから痛い」
という説明はとても分かりやすいのですが、実際の身体はそれほど単純ではありません。
むしろ
痛み → 姿勢の変化 → 歪み
という順序で起きていることが多いのです。
だからこそ重要なのは
・痛みの原因を見つけること
・筋肉や筋膜の状態を改善すること
・その後に身体の使い方を整えること
です。
姿勢を「矯正する」のではなく、身体が自然と良い姿勢を取りやすい状態に戻すこと
それが本当の意味での身体の改善だと考えています。
=筆者:佐野 聖(さの ひじり)/ はり・きゅう・マッサージ治療院 feel 院長=
1995年に鍼灸マッサージ師(国家資格)を取得し、整形外科勤務からキャリアをスタートしました。臨床の現場で数多くの症例に携わる中で、痛みの多くが筋肉や筋膜に由来することに注目し、2003年に横浜で「はり・きゅう・マッサージ治療院 feel」を開業。筋筋膜性疼痛症候群(MPS)やトリガーポイント治療を専門に、肩こり・腰痛・坐骨神経痛・五十肩・頭痛など、慢性的な痛みに取り組んできました。
その治療技術や臨床経験は、鍼灸専門誌『医道の日本』でも特集として紹介されています。