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鍼灸専門治療院 feel横浜本院 院長ブログ
2026年08月30日

一つではない腰痛の原因

腰痛
脊柱管狭窄症・脊椎すべり症
ぎっくり腰・ギックリ腰

「腰痛には、このストレッチが効く」



SNSや動画サイトを見ていると、このような情報を目にすることがあります。

実際、そのストレッチをして腰が楽になる人もいるでしょう。ただ、同じように腰が痛い人が同じストレッチをして、同じように改善するとは限りません。

なぜなら、「腰が痛い」という症状が同じでも、関与している組織や痛みの背景まで同じとは限らないからです。

私たちが腰痛を診るときも、「腰痛だからここを治療する」と最初から一つの筋肉や組織に決めているわけではありません。

症状が出る動作、出ない動作、触診したときの反応、普段の痛みが再現される場所などを確認しながら、いくつかの可能性を考えていきます。

「腰が痛い」だけでは、まだ分からないことが多い


腰痛という言葉は、あくまで「腰が痛い」という症状を表しています。

実際の身体では、腰背部にある筋群の関与が考えられることもあれば、腰から少し離れた組織まで評価する必要があることもあります。

さらに、筋・筋膜性の痛みだけでなく、椎間板や椎間関節、神経などの関与を考えるケースもあり、症状や経過によっては医療機関での検査を優先すべき場合もあります。

そのため、痛む場所だけから、

「ここが痛いから、ここが原因だろう」

と判断することはできません。

これは腰痛を考えるうえで、とても大切なところです。



脊柱起立筋の関与を考える腰痛


腰の後ろ側には、脊柱に沿って脊柱起立筋群が走っています。

身体を起こしたり、姿勢を保持したりする際にも働く筋群なので、腰痛を評価するときに確認することの多い場所の一つです。

ただし、腰が痛く、脊柱起立筋に強い緊張や圧痛があったからといって、

「脊柱起立筋が硬い=腰痛の原因」

とは限りません。

圧痛そのものは、症状のない人にもみられることがあります。

私たちが知りたいのは、単に「押して痛いか」だけではありません。

その場所への刺激によって普段感じている腰痛が再現されるのか。どの動作で症状が強くなるのか。その動作と筋肉の働きに整合性があるのか。

そうした情報を重ねていくことで、脊柱起立筋を含む腰背部の筋群が、今回の腰痛にどの程度関与しているのかを考えていきます。

腰の後ろだけでなく、腸腰筋を考えることもある


腰痛だからといって、腰の後ろ側だけを評価するわけではありません。

たとえば、腸腰筋の関与を考えることがあります。

腸腰筋は身体の深部に位置し、腰椎・骨盤・股関節の運動と密接に関係する筋群です。

腰の後ろが痛い人に対して、なぜ身体の前方・深部にある腸腰筋まで考えるのでしょうか。

腰椎と股関節の動きは独立しているわけではなく、立つ、歩く、身体を起こす、脚を動かすといった日常動作では相互に関係しています。

そのため、症状が出る動作や股関節の動き、触診時の反応などによっては、腰部だけを見ていては説明しにくく、腸腰筋を含めて評価する必要が出てきます。

ここでも、

「腰痛には腸腰筋」

と決めているわけではありません。

解剖学や運動学の知識から可能性を考え、その可能性が実際の身体所見と一致するのかを確認します。

臀部の筋肉から腰周辺に症状を感じることもある


腰痛を診る際には、臀部も評価対象になることがあります。

臀部には大臀筋、中臀筋、小臀筋など複数の筋肉があり、それぞれ股関節の運動や骨盤の安定に関係しています。

筋・筋膜性疼痛では、症状を感じている場所と、その症状に関与していると考えられる筋肉の場所が一致しないことがあります。

そのため、腰に痛みを感じていても、臀部の筋肉への刺激によって普段感じている腰周辺の痛みが再現されるようであれば、その所見も無視できません。

逆に、臀部に強い圧痛があっても、いつもの腰痛とはまったく違う痛みであれば、「押して痛かった」という理由だけで主な治療対象とすることには慎重になります。

どこが痛いかだけでなく、どこを刺激すると普段の症状が再現されるのか。

トリガーポイントや筋・筋膜性疼痛を考える際には、こうした視点も評価材料の一つになります。

一つの筋肉だけで腰痛を説明できないことも多い


ここまで脊柱起立筋、腸腰筋、臀部の筋群を例に挙げましたが、実際の腰痛を、

「今回は脊柱起立筋」

「今回は腸腰筋」

と毎回一つの筋肉に分類できるわけではありません。

複数の筋・筋膜が関与していると考えられることもあります。

また、筋肉だけでは症状を十分に説明できない場合には、最初の仮説そのものを見直す必要があります。

私たちが重要だと考えているのは、最初に考えた場所を何とか「原因」にすることではありません。

評価した結果が予想と違えば、別の可能性を考える。

治療後に一つの動作は楽になったけれど、別の動作では変化がなければ、その違いを次の評価に使う。

変わったことだけでなく、変わらなかったことも身体から得られた情報です。

この積み重ねによって、治療する場所や方法も変わっていきます。

だから「腰痛にはこのストレッチ」だけでは足りない


ここまで考えると、冒頭の、

「腰痛にはこのストレッチが効く」

という情報が、なぜすべての腰痛に当てはまらないのかが見えてきます。

ストレッチそのものが悪いわけではありません。

問題は、「腰痛」という一つの言葉で、異なる状態の人をすべて同じものとして扱ってしまうことです。

ある人には合っている運動が、別の人にはほとんど変化を起こさないこともあります。

同じ人でも、症状が強い時期と回復してきた時期では、適切な運動量が変わることもあります。

だから、

「腰痛なら何をすればいいですか?」

という問いに対して、本来は一つの運動だけを示して終わることは難しいのです。

何をすると痛むのか。

何をしても痛むのか、それとも特定の動作だけなのか。

動いている方が楽なのか。

休んでいる方が楽なのか。

症状は腰だけなのか。

脚の痛みやしびれなどを伴っていないか。

まずはこうした違いを見る必要があります。

「正解」を探す前に、今の身体を確かめる


インターネットやSNSのおかげで、腰痛について多くの情報を得られるようになりました。

これは大きなメリットです。

ただ、情報が増えたことで、

「腰痛にはこれが正解」

「この筋肉を緩めればいい」

「この姿勢を直せばいい」

という、分かりやすい答えも増えました。

身体は、そこまで単純ではありません。

私たちが腰痛を評価するときも、症状の場所だけを見て治療する組織を決めるのではなく、解剖学や運動学、関連痛、病態などの知識からいくつかの可能性を考えます。

そのうえで、動作、触診、症状の再現、条件を変えたときの反応、治療後の変化などを確認しながら、その可能性を一つずつ検討していきます。

最初から一つの答えを決めて身体を見るのではなく、知識から仮説を立て、その仮説が本当に目の前の人にも当てはまるのかを身体所見から確かめる。

同じ「腰痛」という言葉の中に、違う身体の状態があるからです。

「腰痛にはこれ」と一つの正解を探すより、まず今の自分の身体では何が起きているのかを考える。

腰痛の治療は、そこから始まります。


【監修・執筆者プロフィール】
佐野 聖(さの ひじり)
はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師(国家資格)
横浜市の「はり・きゅう・マッサージ治療院 feel」院長。1995年に国家資格を取得後、整形外科勤務を経て、2003年に開業。
30年以上にわたり、肩こり・腰痛・坐骨神経痛・五十肩・頭痛などの慢性的な痛みの施術に従事。筋筋膜性疼痛症候群(MPS)、トリガーポイント、筋膜へのアプローチを専門とし、解剖学・運動学に基づいた施術を行っている。
トリガーポイント治療に関する臨床・技術について、鍼灸専門誌『医道の日本』に特集掲載。現在も国内外の知見を学び続け、臨床経験と根拠の両面を重視した施術を行っている。



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