
「サイドレイズをすると肩の真横が痛い」
「ショルダープレスで肩の奥がズキッとする」
「腕を上げる時に一定の角度で痛い」
筋力トレーニングを続けている方から、このようなご相談をいただくことがあります。
このような症状では、単なる三角筋の筋肉痛ではなく、腱板や肩峰下滑液包などが関与する「腱板関連肩痛(Rotator Cuff Related Shoulder Pain:RCRSP)」が関係していることがあります。
従来は「肩峰下インピンジメント症候群」と呼ばれることも多かった状態です。
インピンジメントとは?
「インピンジメント(Impingement)」とは、「衝突する」「挟み込まれる」といった意味があります。
肩では腕を上げる際に、
肩峰(肩甲骨の一部)
上腕骨
腱板(特に棘上筋腱)
肩峰下滑液包
などが存在する肩峰下領域に負荷が加わります。
以前は、
「肩峰と上腕骨の間で腱板や滑液包が挟まれることが痛みの原因」
と説明されることが一般的でした。
しかし現在では、肩の痛みを単純な「挟み込み」だけで説明することは難しいと考えられています。
腱板への繰り返しの負荷や腱の負荷耐性、肩関節・肩甲骨の動き、筋力や柔軟性など、さまざまな要因が組み合わさって症状が現れると考えられています。
そのため近年では、「肩峰下インピンジメント」という言葉だけでなく、腱板関連肩痛(RCRSP)という考え方が用いられるようになっています。
三角筋が原因とは限りません
肩の外側が痛いため、
「三角筋を痛めた」
と思われる方は少なくありません。
しかし、痛みを感じている場所と、実際に症状に関与している組織が一致するとは限りません。
肩の外側に感じる痛みでも、
棘上筋
棘下筋
肩甲下筋
小円筋
といった腱板(ローテーターカフ)や、肩峰下滑液包などが関係していることがあります。
さらに、
小胸筋
広背筋
大円筋
僧帽筋
前鋸筋
など、肩甲骨や上腕骨の動きに関わる筋肉の筋力や柔軟性が変化することで、腕を上げる際の肩甲上腕リズムや肩周囲への負荷のかかり方が変化することもあります。
なぜサイドレイズで痛くなるのか?
本来、腕を上げる時には、
上腕骨・肩甲骨・胸郭
が協調して動いています。
肩関節だけが動いているわけではありません。
サイドレイズやショルダープレスでは、この協調した動きに加えて、腱板や三角筋などに大きな負荷が加わります。
例えば、
重すぎる重量
急激なトレーニング量の増加
疲労によるフォームの変化
腱板の筋力や負荷耐性の低下
肩関節の可動域制限
肩甲骨周囲筋の機能低下
などが重なると、腱板や肩周囲の組織へ負荷が集中することがあります。
その結果、サイドレイズなどの挙上動作で痛みが生じることがあります。
つまり、
「肩の中で何かが挟まっているから痛い」
と単純に考えるのではなく、
「なぜその動作で肩に負荷が集中しているのか」
という視点で身体を評価することが重要です。
トリガーポイントは肩だけではありません
当院では、
「痛い場所だけを治療する」
という考え方ではなく、
「なぜその動作で肩に負担が集中しているのか」
という視点から身体を評価します。
棘下筋
棘下筋は、肩関節の外旋や安定性に関わる腱板筋の一つです。
過緊張や圧痛、筋力低下などがみられる場合には、肩関節の動きや痛みとの関連を評価します。
肩甲下筋
肩甲下筋は肩の前面深部に位置する腱板筋で、肩関節の内旋や安定性に関わっています。
筋緊張や柔軟性の低下がある場合には、肩関節の動きが制限されることがあります。
小胸筋
小胸筋は肩甲骨の動きに関係する筋肉です。
デスクワークやトレーニングなどによって柔軟性が低下すると、肩甲骨の後傾や上方回旋などの動きに影響する可能性があります。
広背筋・大円筋
広背筋や大円筋は、肩関節の内旋・内転・伸展などに関係しています。
柔軟性が低下すると肩関節の挙上可動域が制限され、腕を上げる動作に影響することがあります。
前鋸筋
前鋸筋は、腕を上げる際の肩甲骨の上方回旋や後傾などに関わる重要な筋肉です。
僧帽筋などと協調して働くことで、肩甲骨を適切に動かしています。
筋力や運動制御が低下すると、腕を上げる際の肩甲骨の動きや肩周囲への負荷のかかり方が変化することがあります。
三角筋
三角筋そのものに過緊張や圧痛、トリガーポイントが形成され、肩の外側に痛みを生じている場合もあります。
そのため、
「肩の外側が痛いから三角筋」
あるいは、
「インピンジメントだから棘上筋」
と一つの筋肉だけで判断せず、実際の動作や圧痛、筋力、可動域などを確認することが重要です。
トリガーポイント鍼治療では何を行うのか
トリガーポイント鍼治療では、
圧痛や筋緊張だけでなく、
どの動作で痛むのか、どの角度で痛むのか、肩甲骨や上腕骨がどのように動いているのか
などを確認しながら評価を行います。
症状に応じて、
棘上筋
棘下筋
肩甲下筋
小円筋
三角筋
小胸筋
前鋸筋
僧帽筋
などを評価し、症状との関連が考えられる筋筋膜に対して必要に応じて施術を行います。
大切なのは、
「痛い筋肉を探すこと」だけではありません。
施術によって痛みが変化するのか。
肩関節の可動域が変わるのか。
サイドレイズなどの動作が変わるのか。
こうした変化も確認しながら、その方の肩の状態を評価していきます。
トレーニングは続けられる?
痛みの程度や病態によりますが、多くの場合、
「完全に休む」ではなく「負荷を調整する」
という考え方が重要になります。
例えば、
ダンベル重量を下げる
トレーニング量や頻度を調整する
真横だけにこだわらず、肩甲骨面(身体の真横よりやや前方)など痛みの少ない方向で挙上する
痛みが強い角度まで無理に挙上しない
肩甲骨や肩関節の動きを確認する
などによって、肩への負担を調整できる場合があります。
症状が落ち着いてきたら、状態を確認しながら徐々に可動域や負荷を戻していくことも重要です。
トレーニングを休むか続けるかという二択ではなく、
現在の肩が耐えられる負荷を見極めながら調整していく
という考え方が大切です。
当院で大切にしている評価
当院では、
「肩が痛い=肩だけが悪い」
とは考えません。
また、
「インピンジメント=肩の中で腱が挟まっている」
と単純に判断することもしません。
肩関節の可動域だけでなく、
肩甲骨の動き
胸郭の動き
腱板の筋機能
肩甲骨周囲筋の働き
左右差
トレーニングフォーム
トレーニング量や負荷
などを確認しながら、
「なぜその動作で痛みが出ているのか」
という視点で評価を行います。
特にトレーニングを継続している方の場合、
「痛みを取ること」だけでは十分ではありません。
痛みが改善しても、同じ負荷や同じ動作で再び肩にストレスが集中すれば、症状を繰り返す可能性があります。
だからこそ、
痛み・筋機能・可動域・フォーム・トレーニング負荷
まで含めて考えることが重要だと考えています。
肩の痛みは、単なる筋肉痛や「肩の中で何かが挟まっている」という一つの原因だけでは説明できないことがあります。
腱板への負荷、筋筋膜の状態、肩甲骨や胸郭の動き、筋力、可動域、そしてトレーニング負荷など、さまざまな要因が関係しています。
当院ではトリガーポイントの視点だけでなく、実際の肩の動きやトレーニング動作も確認しながら、一人ひとりの身体の状態に合わせた施術をご提案しています。
【監修・執筆者プロフィール】
佐野 聖(さの ひじり)
はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師(国家資格)
横浜市の「はり・きゅう・マッサージ治療院 feel」院長。1995年に国家資格を取得後、整形外科勤務を経て、2003年に開業。
30年以上にわたり、肩こり・腰痛・坐骨神経痛・五十肩・頭痛などの慢性的な痛みの施術に従事。筋筋膜性疼痛症候群(MPS)、トリガーポイント、筋膜へのアプローチを専門とし、解剖学・運動学に基づいた施術を行っている。
トリガーポイント治療に関する臨床・技術について、鍼灸専門誌『医道の日本』に特集掲載。現在も国内外の知見を学び続け、臨床経験と根拠の両面を重視した施術を行っている。
